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ルソン島のバタンガス州タナウアン市の市長が暗殺された。7月2日の朝、国旗掲揚の儀式に参加していたアントニオ・ハリリ市長は、狙撃の名人(sniper)からの銃弾を受けて、市長は胸を押さえながら、よろめいて倒れこんでしまった。病院に担ぎ込まれた時には、すでに絶命していた。
150メートル程離れた藪の中に暗殺者は隠れていて狙撃したようだ。ただ、150メートル離れた所から狙撃するのは、かなり訓練を積んだ人間でないと不可能である。現役か退役の軍人か、警察関係者だろうと言われている。組織的な訓練を受けた人間だけが可能とすると、ギャング団では無理で正規の軍か警察での訓練を受けた人物が推察されるのだ。
報酬はいくらぐらいかということで憶測が飛んでいる。100万ペソ(およそ200万円)ぐらいではないかという人もいる。
アントニオ・ハリリ市長は麻薬との関連が噂されていた人物である。国家警察から麻薬団との関与が疑われていて、市長自身からは警察に関する監督権を取り上げられていた。
市長は、麻薬への関与を疑われながら、麻薬犯罪者には厳しい姿勢を見せて、麻薬容疑者には市内で恥辱の行進(Walk of Shame)をさせて、晒し者にした。これは厳しい批判を受けた。
アントニオ・ハリリ市長の暗殺に関しては、ドゥテルテ大統領は、「彼は麻薬容疑者に恥辱の行進をさせたが、本当は彼が行進すべきであった」と演説している。この演説を聞くと、大統領が暗殺の指示を出したのか、あるいは少なくも暗黙の了解があったようにも感じる。
自由党の関係者たちは、今回の事件は大統領の指令があったとして、大統領を非難している。
あるいは、市長は麻薬関係者に対して厳しい姿勢を見せたことから、裏切りとして、暗殺されたという説もある。
本当はどうなのか、現段階では分からない。しかし、麻薬との関連がとりだたされた市長がすでに2名ほどが暗殺れている。レイテ州アルグエラ市のロナルド・エスピノサ市長、西ミサミス州オザミス市のレイナルド・パロジノグ市長であり、今回の事件で3人目になる。
麻薬に手に染めるものは容赦なく殺すというのがドゥテルテ大統領の方針である。しかも、その方針は国民の大多数から圧倒的な支持を受けている。
今までの大統領が資産家であり大統領を経験することで更に個人資産を増やしたことに対して、彼自身は質素な生活に満足しているようである。飾らない性格も国民から支持を受けている。
しかし、自民党関係者は国外にドゥテルテ大統領は人権無視の政策を取っていると訴えている。しかし、国外に訴えるという方針は現状では国民にはアピールはしていない。
大統領は2年前に政権についた。そして、今は3年目が始まる。彼のこの政策は犯罪対策では一定の効果をあげていると言えよう。
麻薬犯罪者を裁くには due process と自民党関係者は叫んでいるが、今まではフィリピンの司法が機能していなかった。犯罪者の裁判で証人たちは暗殺されたりして、誰も怖がって証人に立とうとはしない。この現状打破には、ドゥテルテ式の手荒な方式しかないのかなと思う。
ところで、ドゥテルテ自身も暗殺に気をつけるべきである。彼が倒れたら、副大統領が後を継ぐ。この国の選挙は不思議な制度で、大統領と副大統領が組む必要はないのである。現在の副大統領は自民党側で、ドゥテルテの方式にことごとく反対している。その意味では、ドゥテルテがいなくなると、フィリピンでは大きな混乱が起こることは必至である。その意味で、人々はドゥテルテを守ろうという意識は高い。