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2016-01-05

はじめに

20世紀の半ばまで、アジア・アフリカの国々はヨーロッパ列強やアメリカの支配下にあった。フィリピンはアメリカの植民地、マレーシアはイギリスの植民地であった。その歴史から英語が両国の社会に深く根付いたのである。独立後は両国ともこの強い英語支配にどう対処すべきか迷った時期があり、ある時は英語を排除して自らの言語を用いようとしたり、またある時は英語の積極的な使用へと動いたりした。そして、現在では、両国とも英語を活用して経済発展に役立てようとする方向に進んでいる。

1.マレーシア

はじめにマレーシアの社会言語的な特徴を見ていく。この国は多民族・多言語社会へと発展したことで、現在はマレー系(6割)、中国系(3割)、インド系(1割)という比率になっている。自分は1992年にペナン島にある中国系の家庭に数週間ほどホームスティしたが、社会の多言語状態が影響して家庭の中まで多言語状態であることに驚いた。

さらに、私はそのころにクアラルンプールの語学学校にて、マレー語を勉強した。マンツーマン授業で授業料も一時間500円ほどと安くて、講師の先生方がとても有能であったことを記憶している。自分がはじめて接した東南アジアの言語であった。このマレー語の特質は文法が簡単であり、非常に覚えやすい言語である点だ。これは商人の間のリンガフランカとして生まれてきた歴史と関係する。マレー語はインドネシア語とほぼ同じ言語であり、東南アジアにおける有力な言語であるので、学習しておくと必ず将来に役に立つことを述べておく。

現在は、経済的には中国系住民(華人・華僑)が強いが、政治的にはマレー系の住民が強い。政府はマレー系の住民の力を強めるためにブミプトラ政策を取っている。民族間の対立はあるが、イギリスの植民地支配から生じた英語力という負の遺産を上手に利用しながら、新興の国家として成長しつつある。

2.フィリピン

フィリピンも多言語国家であり、人種は主にマレー系であり、宗教はカトリックが多い。なお、南ではイスラム教も盛んである。イスラム教徒は人口の5%ほどである。過激派の行動がよく新聞・テレビなどに報道される。

フィリピン人は公的な場所では英語を話すことが多く、私的な場所ではタガログ語などの民族語を話すことが多い。バイリンガルな生活を行っている。学校教育では、英語と理系の科目は英語で、国語と文系の科目はフィリピノ(タガログ)語を使って授業が行われる。

この国は、貧富の差が激しく、英語がその格差を広げる働きをしている。英語が社会階層を昇る手段と意識されていて、一般に英語学習への熱意は強い。さらには英語力を生かして海外への出稼ぎ者も多く、フィリピンのこれからの経済をにぎる鍵は英語であると意識されている。

3.国際語としての英語

アメリカやイギリスの英語が現在もっとも権威のあるものと考えられている。ここで、英語はネイティブ英語話者の独占的な所有物であるかどうか考えてみたい。

話者の数であるが、ざっと計算して、英語を母語とする国々(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど)では3億7500万人の話し手が、英語を第二言語とする国々(フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドなど)は3億人7500万人の話し手がいる。さらには、英語を外国語とする国々(日本、韓国、中国など)では7億5千万人ほどの話し手がいると言われている。そして、英語を外国語として話す人々の数が急速に増加しているのである。

非ネイティブの人の数が多い点から考えると、現在、英語を学んでいる日本人が将来英語を用いてコミュニケーションする相手は、英語を母語とする人々よりも英語を非母語とする人々が多いと予想される。その意味では、私たちは、むしろ非母語話者の話す英語に対して関心を持つべきなのである。
これらの英語の間での上下関係はあるかどうかという視点で考えてみたい。英語を母語とする国々の英語も、英語を第二言語とする国々の英語も対等の関係であると考えたい。

それぞれの英語が地域に根付いている点に注目したい。フィリピン人はフィリピン英語を話すことによって、フィリピン性を示すことができるのである。同じように、マレーシア人もシンガポール人もインド人も、そして日本人もそれぞれの土地に根付いた特徴的な英語を使うことによって、アイデンティティを示すことができる。

その意味では、フィリピンの英語もアメリカの英語も上下の関係にあるのではなく、それぞれの地域の話し手のアイデンティティを示すという意味では、並列的な関係にある。コミュニケーションは一方通行ではなく、双方向的な関係である。自らのアイデンティティを示しながらコミュニケーションが生じるのである。その意味で、英米以外の英語話者が自分たちの話す英語を社会的に威信の低い変種として捉える必要はない。このような視点を基軸として、アジアにおけるさまざまな英語の存在の意義を理解することができる。

4.英語を学ぶ留学先としてのフィリピンとマレーシア

マレーシアもフィリピンも独立後のある時期は旧宗主国の影響から離れて、自国の言語の育成をはかり英語を自国語で置き換えていこうとした。しかし、20世紀の後半からは、英語の重要性の再認識から、植民地という負の遺産の産物である自国の英語力を積極的に利用しようとしている。その一つの現れとして英語留学の受け入れの積極化である。

イギリスとアメリカの植民地として東南アジアでは英語を第二言語とする国々が多い。それらの国の中で、現時点では、英語留学が現実的に可能な国として、4か国があげられる。それは、インド、シンガポール、フィリピン、マレーシアである。しかし、利便性という観点から見ると、それらの間にも若干の差がある。つまり、インドは距離的に遠いこと、シンガポールは物価水準が日本と同じであること、から英語留学の敷居はやや高い。その点から、マレーシアとフィリピンが英語留学するには最も好条件を示している。

いわゆる英語圏の国々に留学することと比較して、この両国に留学することの利点として以下の点が上げられうる。(1)生活する物価が安いこと。(2)マンツーマン授業が行われること、英米での語学留学は1クラスが10名から15名前後の人数であり講師が中央に立ち英語で受講者とやり取りをする。日本人は国民性からなかなかその会話の中に入れない。(3)コストパフォーマンスがいいこと、コストとして、フィリピンでは一時間500円ほどの授業料である。英米人の講師ならば、一時間のマンツーマンの授業ではるかに高い授業料を払わなければならない。(もっとも、それゆえにフィリピン人講師たちの間では給料が低いという苦情があるのだが)

なお、付け加えるならば、フィリピンにおける英語講師はエリートであることも指摘したい。この国では大卒の就職先は多くはないので、語学学校に優秀な人が集まる。採用時には、数次の面接で選び抜かれた人々で、英語教授法TESOL (Teaching English to speakers of other languages) を専攻してきた人も多い。年齢的には比較的に若い講師が多いので、受講生と年齢が近いので親近感をいだくことができる。

5.英語留学の歴史的経緯(フィリピン)

フィリピンにおける英語学校は、韓国資本が開発したのである。1997年のアジア経済危機の時に韓国はIMF管理に陥った。その時の経験から韓国では国際競争力をつけて貿易を伸ばす必要性が謳われた。つまり、国民全体の英語力をつけることに真剣になる。そのために海外での英語留学の希望者が増えてたが、物価などの点からアジアで英語がよく使われる国への留学に目が向いたのであった。

韓国資本はフィリピンにおいて留学生向けの学校をつくり現時点で15年以上の歴史を持つ学校が多い。日本資本もそれを追いかけて、語学学校を作りつつあるが、大規模校や定評のある学校は現時点では韓国資本の語学学校に多い。

 なお、授業はノーマル方式とスパルタ方式の二つがあるとよく言われる。ノーマル方式は日本資本の学校に多くて、普通にゆっくりと受講者のペースで授業が進んでいくのである。一方のスパルタ方式は韓国資本の学校に多くて、かなりハードな宿題や授業時間が多く、外出もままならないことが多い。英語力の上達という視点からは韓国資本のスパルタ式の学校の方が効果的である。しかし、総合的には日本人には日本資本の学校が向いているともよく言われる。

6.英語留学の歴史的経緯(マレーシア)

マレーシアは人種による大学入学者割り当て制度があり、中国系住民に対する大学進学を制限する動きがあった。そのために、中国系住民は英米の大学に留学することが盛んであった。

英米の大学に進学のための予備校としての語学学校があった。そこで英語学習をすることは当然効果的であった。さらに、近年は韓国資本が進出して語学学校を開設している。フィリピンほど数は多くはないが、いずれ近い将来には、韓国資本や日本資本が進出して、たくさんの語学学校が開かれることが予想される。

おわりに

現在のアジアの言語事情を考えると、アジアの共通語が英語となりつつある点はしっかりと抑えておくべきだろう。たとえば、ASEAN諸国の会議での言語は英語である。アジアでたくさんの話し手のいる中国語やマレー語ではなくて、英語が当然のこととして選ばれた。

また、東アジアの国々も小学校からの英語教育などに力を入れている。早期英語教育が一つのキーワードになりつつある。これは貿易の国際競争力を高めよう、そして最新の科学技術の入手を図ろうとするものである。

東南アジアで英語が第二言語として普及した国は、自国の英語力を資産と考えて有効活用しようとしている。その表れとして、さまざまな語学学校が留学生を受け入れはじめている。

このように、21世紀のアジアを理解するキーワードとして、英語、英語教育、英語留学などがあげられる。非英語母語話者どうしが英語を使ってコミュニケーションすることが爆発的に増える中にあって、これらの状況をしっかりと理解していくことで、アジアの英語がより親しみやすいものとなり、私たちのアジアの人々への理解がより深まるものと思われる。

photo credit: 18ey - Philippines Airbus A340-211; F-OHPI@FRA;01.04.1998 via photopin (license)
photo credit: 18ey – Philippines Airbus A340-211; F-OHPI@FRA;01.04.1998 via photopin (license)
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